ブロ愚

日々徒然と妄想文

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「夜を歩く」(ワル→フリ)
イサフリばっかりどうこう言ってるけどワルフリも好きなんです。という小話。1000字くらい。まだ続きがあるのですがキリがいいので一旦晒して原稿します。
続きから。シンジュク村の選択後の話。































夜を歩く



 夜の中を歩いているようだ、という声が聞こえてワルターは振り返った。声の主である少年はワルターよりも半歩後ろでぼんやりと町並みを眺めている。それ以上喋る様子も無いので、どう答えようかと頭を掻いた。
「まあ、いつも真っ暗だしな」
 見上げたところで目に映るのは厚い岩盤ばかり。彼らの故郷である東のミカド国で見えるような青空はどうしたって拝めそうもない。何せその故郷というのが、東京の空を覆う岩盤の上に存在するのだ。
 長い髪を高く括った少年はその毛先を揺らして首を振る。そうではない、と。
「気持ちとして」
「なんだそりゃ。おっまえ、意外と詩人だよなぁ」
 何度か瞬きをして、少年がワルターをじっと見つめる。深緑の瞳には疑問の色が浮かんでいた。
「この間は、逆のことを言っていなかったか。ロマンがわからない、とか」
「ああ、そりゃあ……」
 この年頃なら誰でもするような話題のときに、男のロマンがわかっちゃいないと軽口を叩いた気がする。きっかけは何だったかと思い出そうとして、その時共にいた人影が脳裏を掠めた。彼は今ここには居ないし、これからはもう道が交わることもない。
「どうでもいいだろ。早く行こうぜ」
 ばつが悪くなって、そう話を切り上げた。答えない少年の腕を引いてワルターは歩き出す。
 この付近には、もう二人を手こずらせるような悪魔はいない。ほんの少し剣をちらつかせただけで微かな影たちは逃げていく。それは恐れられるほど、目に見えるほど、自分に力があるということ。
 力。
 力のある者が望むだけ変えられる世界を作る。その理想の為に生きると決めた。帰る場所も失った。ワルターの手の中に残ったのは自分自身の力と、この少年の存在だけだ。だけれど、
「ワルター、痛い」
 知らず、腕を引く手に力を込めすぎていたらしい。慌てて放し、悪いと謝るワルターに少年は静かに首を振る。
「そんなに強く握らなくても、逃げない」
 ――だけれど、自分は彼に選んで貰えなかった。
 ワルターの心の中に、そんな意識が根を張っている。いつ、何について、選んで貰えなかったのか。思い出そうとしても心当たりとして挙げられる様な事象はひとつも無い。それなのに、初対面の時点で既に芽生えていたこの感覚には確信めいたものが宿っていた。
 もうずっと、同じことを繰り返しているような気さえする。幾度となく彼に手を差し伸べ、その度に振り払われ、ワルターにも――真逆の道を往くヨナタンにさえ、想像もつかなかった遠い世界へ彼は行ってしまう。
 夜を歩いているのは、自分だけだ。
「どこにも行くなよ」
「ああ」
「信じてるからな」
 ふ、と少年に笑みが浮かぶ。眉尻の下がった、困ったような表情のまま。

「ワルターは、嘘が下手だな」


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