ブロ愚

日々徒然と妄想文

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
お茶濁しに
去年の10月4日に載せようと思ってたやつ……の、途中まで。実は未だにラストを決めあぐねているので書き上がってないという……一年経っちゃう! 結末というか筋書きは決まってるんですけど、どこで切るのかが決められないw








オープンエンドのまぼろし




「先輩の部屋で寝るの、すっかり癖になっちゃいましたね」
 寝ている俺に気遣ってかカーテンを開けたり必要以上に物音を立てるそぶりは見せないくせに、いつも通りの声量で話しかけてくるのはどうだろうと思う。寝ぼけた頭のまま薄目を開けると、ベッドサイドに腰掛けてリボンタイを結ぶそいつの輪郭が見えた。
 ああ、学校へ行くのか。そんな当たり前のことにようやく思い当たって、眠気を堪え起きあがった。時計を見ると九時を回っている。俺にしては早起きの方だが、目の前にいるコイツからすれば完全に寝坊だ。
「あれ、起きた」
「んな悠長にしてていいのかよ……」
 首を傾げたそいつは長い睫を瞬かせたあと、悪びれもせずに言ってのける。
「いいですよどうでも。遅刻なんて一時間も二時間も一緒です」
「とんだ優等生だな」
「誰かさんのせいで、悪いことを覚えてしまいましたからね」
「そりゃ誰だろうな」
 無言で見つめられたが、知らんふりを決め込んだ。もう行きますと腰を上げたのはそいつの性格上呆れたからというより単純に支度が終わったからだろう。と思ったら、いつまでも立ち呆けている。
「どうした?」
 無意識に視線を追いかけて、意味を悟った。壁に掛かったカレンダーはもう十月のものだ。あと少しだということを言葉にしなくても察しているのだろう。本当にこいつは、無駄なことにばかり鋭い。
 ふと、目があった。陰の落ちた表情で、泣き言を言うなら黙って聞いてやろうと思った。恨み言を言うなら、やはり黙って受け入れようと思った。なのにそいつは、泣きそうな目をしている癖に無理矢理口角を持ち上げて、笑顔を作る。
 思わず、口が動いていた。

「逃げるか」



オープンエンド[open-end]
終わりが決められていないこと。中途で変更が可能であること。
対義語:クローズドエンド[closed-end]
終わりが決められていること。途中で変更が不可能であること。



 免許も何も持っていない俺たちが取れる移動手段というのは乏しい。バスか電車の二択しかない。バイクの免許でも取ってけばよかったなと歩きながら思う。高一の時に憧れはあったんだが、色々あったもんだからすっかり忘れていた。
「どこまで行きましょうか。外国とか?」
「俺英語できねえ」
「じゃあ国内で」
 声を上げて笑いながらそう言う。不自然に明るいそいつと二人、あねはづるの料金表を見上げる。
「こういうときの定番っつーと、南だっけか北だっけか」
「寒いところより暖かいところの方が好きです……屋久島とか」
 屋久島――というと確か鹿児島県だったか? 悪くはないが何故そんな微妙なところを。
「沖縄じゃねえのかよ」
「え、あ、いや! 沖縄、沖縄いいですよね!」
 妙に慌てた様子で大げさに頷いて、目を泳がせる。不審には思ったがつつくのは止めておいた。
「どっちにしろ、今日そこまで行くのは面倒だな」
「ああ、飛行機のチケットとったりしないといけないですもんね」
 結局、電車で行き止まりになるところまで行ってみようということに決まった。路線図の端に載っている小さな駅名。どこの路線にも乗り換えできないそこは寂れているんだろうな、と行く前から想像がついた。


「海だ」
 目を輝かせながら白い砂浜に駆けていく。
「海なんか珍しくねえだろ」
 その背中を追うように歩きながら、港区にだってあんだからと呟くと振り向いた顔は不満そうな表情をしていた。
 電車に長いこと揺られて辿り着いたのは物静かな街だった。殆ど波の音しかしない。涼しくなった今、海に入ろうという酔狂な奴もいないのだろう、俺たち以外に人影は見あたらない。そもそも今日は平日だ。閑散としていて当たり前か。
「お前、今いくら持ってる」
「月曜に武器を買ってしまったので……」
 もごもごと小さな声で金額を告げる。
「まあ、そんなもんか」
 俺も貯金がないとは言わないが、合わせても大した金額にはならない。今更ながら無計画を思い知らされる。
「とりあえず部屋借りねぇとだな。仕事探すのはそん次」
 住み込みの仕事があればそれはそれで楽なんだろうが、こいつがそういう仕事できるタイプじゃないだろうしな。本人に言うと拗ねるので黙っておく。
「住むとこなんか希望あるか?」
「先輩と一緒ならどんなところでもいいです」
 なんだそりゃ。呆れてお前なぁ、とため息を吐くと唇を尖らせた。
「だって、そんな贅沢言ってられる状況でもないですよ?」
「そりゃそうだが……下には下があんだぞ」
 風呂無い便所無い台所無い。と挙げてみせると、想像したのか苦々しくトイレは欲しいです、と呟いた。ふと名案を思いついたと言わんばかりに、ぱっと顔を上げる。
「先輩は食堂とか、料理するところで働いた方がいいですよ」
「働き口がありゃいいんだがな」
 現実的に考えて、そんなにうまく行くものだろうか。
「つうか、ここでいいのか?」
「いいんじゃないですかね」
 逡巡するような間の後、首を傾げながらそう言う。悪くはないがさして良い訳でもない、といったところか。
「転々とするってのもありかもな」
「いつかは、どこか一つの場所に落ち着きたいです」
 はっとする。そうだ、こいつは確か親戚のところを転々としてたんだった。そうか、と答えて頷く。慣れてはいるが諸手を挙げて賛同できるものでもないんだろう。
「典型的な一軒家に住むのが夢なんです」
 赤い屋根、白い壁、花壇のある広い庭……と指折り挙げていく姿を微笑ましいと思った。もしかしてその家は煙突がついていないかと訊ねると、無邪気に頷く。
「サンタクロースが入ってくる以外に使い道は無いですけど……」
「煙突ってことは暖炉だろ。冬場に薪でも燃やせばいい」
「サンタが丸焼きになるじゃないですか」
 もしかして本気でサンタ信じてないだろうな。というか来るのかこの歳になって。突っ込むのも面倒なのではいはいと適当に頷いておいた。
「あと、白い大きな犬とか……」
 思いつくまま言葉にしてしまってから気付く。青も同じことを想像したのか、何も言わなかった。今日は散歩当番の日だったと今更思い出す。気まずい静寂の中で、波の音だけがうるさかった。
 そいつが唐突に、ブーツも靴下も脱いで放り投げて素足になる。何してんだこいつ、と思いながら眺めていると、そのまま打ち寄せる波の中へ歩いていく。
「おい、」
 そいつが足を止めると、水を蹴りあげる音も止まって再び波の音だけに支配される。振り返った。視線と視線が、絡み合う。
 晴れとは言いにくい天気の空と海を背負って、吹き付ける風の中で立っている。ただそれだけなのになぜだか吸い込まれていきそうな気がした。微動だにしていないのに、手を伸べられた気がした。
 たしかにそいつは行こうと言った。俺と一緒ならどこだっていいと言った。
「馬鹿」
 だけど俺は、お前に、そんな所へ行って欲しくないんだ。
「何やってんだ、また風邪引くぞ」
 ぱちぱちと数回瞬きした後、そいつが破顔した。一歩踏み込んで、足を後ろに降りかぶっ……うん?
「せいっ」
「ぶわっ!?」
 思い切り蹴りあげられた海面は派手に水しぶきをまき散らしながら俺へと降り懸かる。
「てっめぇ……」
 悪びれもせずに声を上げて笑う。カッとなって俺も靴を脱ぎ捨てて海へ足を突っ込んだところで逃げ出したので、走って追いかけた。
「逃げんな!」
「嫌ですー!」
 ああくそコイツ足早ぇな! 全力疾走しているにも関わらず追いつく気配がない。
「せんぱ、わぷっ」
 何を思ったか振り返ろうとしたので思い切り水をかけてやった。ざまあみろと声に出すと、頬を膨らませてかけ返された。かける。かけられる。そのまま水の掛け合いになった。
「先輩先輩先輩!」
「何だよ!」
 水しぶきの音に負けないように声を張り上げる。水が口に入って塩辛い。
「ご飯は先輩が作って下さいね!」
「……掃除と洗濯はお前がやれよ!」
「掃除は二人でやった方が早いです!」
「それもそうだ!」
「子供は三人欲しいですね!」
「産めねえよ男同士だろうが!」
「頑張って下さい!」
「しかも俺が産むのかよ!」
 わざとらしい位に笑い声をあげて、子供のように水を掛け合った。

 遠い目をして夕焼けを眺める。雲の切れ間から顔を覗かせる夕日を反射して、波が光を振りまいていた。綺麗だと思う――現実逃避、あるいは賢者タイム。
「何やってるんでしょうね俺たち」
「勝手に”たち”にするな、やったのはオメーだろが」
「先輩だってノリノリだったじゃないですか」
「濡れ衣だ」
「実際ずぶ濡れですからね」
 吹いた風に二人して身を竦める。被った海水やら汗やらで寒い。冷静になって考えると大の男が水の掛け合いってのは果てしなく痛い光景だったろう。誰も見ていなかったことを願うばかりだ。
 だが――まあ。
「楽しかったよ」
「え?」
「んな馬鹿なことしたのは久しぶりだ」
 笑って言うと青も破顔する。その笑顔を確認してから立ち上がり、服についた砂を払う。
「ほら、行くぞ」
「行く?」
「今日は泊まる場所探して、住むところはまた明日だ」
 帰ろうとでも言われると思ったのか、ほっと息を吐いていた。座ったままのそいつに手を差し伸べると何故か不思議そうに手を見つめている。
「立てって」
「あ、そうか……」
 ようやく手を取って立ち上がる。塩水でべたべたしてますね、と楽しそうに笑った。


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。