ブロ愚

日々徒然と妄想文

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不幸な(略)改め
「ワースト・ハッピーエンド」というタイトルでカテゴリー作りました。
最も悪いハッピーエンドという意味のつもりですが英文法的には正しくないです。そもそもハッピーエンドが和製英語……。
不幸な(略)のままでも良かったのですがタイトル長いのが気になって。でも改めて考えると不(略)は10文字でワー(略)は12文字で文字数増えてる!意味ない!

ということで続きから続きです。時間を戻して5月の話。1900くらい。


拍手下さった方々ありがとうございました!








2.箱庭にひとりぼっち



「いや、聞き覚えのねえ名前だな」
「そうか……」
 荒垣が首を横に振るのを見て、真田は肩を落とした。落胆にも安堵にも見えるそれを見て、荒垣が怪訝そうに眉を顰める。
 病院といえど、大勢の人間が集まる場所だけあって昼間は賑やかだ。開け放たれた窓の外からは子供の笑い声が聞こえるし、廊下からはひっきりなしに人の足音や何かを運んでいく音、見舞い客の喋り声がぼんやりと響いている。
 荒垣自身もその見舞い客の一人だ。もう十四年にもなる付き合いの幼なじみがアバラを折って入院すると連絡が入った。最初に聞いたときは流石に心配したものだが、幼なじみと同じ寮生の桐条から入院といっても検査入院であることと本人は至って元気であること、どころか早く体を動かしたくて仕方ないという『いつも通り』の話をされて呆れてしまった。
 入院した幼なじみ――真田が訊きたい話があるというので手土産片手に病院を訪れて今に至る。訊ねられたのは路地裏で流れる噂と、ここに入院しているという一人の少年の名前だ。
「で、何だよ。そいつがどうかしたのか」
「四月に転校してきた二年生なんだが、幾月さんが言うにはそいつもペルソナを使える可能性があるらしい」
 荒垣はへえ、と気のない返事を返した。
 ペルソナ。もう一人の自分。唯一シャドウに対抗しえるもの。それは誰も彼もが使えるという訳ではない。長年人手不足に喘いできた活動部には新たな戦力は朗報だろう。
 もっとも、活動部を抜けた荒垣には既に関係の無い話だ。四月に新人が二人増えて、使える可能性のある人物がまた二人。これで真田や桐条が自分に戻ってこいと言うことも少なくなるならば荒垣にとっても喜べる話題になるが、幼なじみの性格上、そううまくはいかないことを知っている。
「ある、らしいんだが……」
 言いづらいとばかりに真田が視線を泳がせる。竹を割ったような性格の彼は歯に衣も着せず思ったことを言ってしまうことも多いが、今回ばかりは例外のようだった。躊躇うような喋り方に珍しく言葉を選んでいるのが見て取れる。
「そいつ、シンジの話をするんだ」
「ああ?」
 何の冗談だと顔をしかめる荒垣に、真田は慌ててまくし立てる。
「本当に会ったことは無いのか? ぶつぶつとお前の話をするばかりで会話さえ成立しないんだ。最初は無気力症として保護されたんだが……医者が言うには」
 心の病らしいと気まずそうに言ってから口を噤んだ。付き合いの長い荒垣には真田が冗談を言っている訳でも、ましてやからかうための演技でもないことはとうに分かっている。だからこそ飲み込めない。
「俺の話ってのは」
「途切れ途切れで要領を得んが、何をしたとか何を喋ったとか、そんなところだな」
「同姓同名の別の奴ってオチじゃねえのか」
「この街に動物好きで料理が趣味の荒垣真次郎が二人いるならそうだろう」
「ああ、そりゃあ別の奴だ」
 そんなことまで知っているのか。軽口を叩きつつ、薄ら寒いものを味わっていた。荒垣は周囲に自分がどう見られているかをよく理解しているが、上辺くらいしか知らないような縁の遠い人間にその二つは浮かばない筈だ。
「会いに行ってみてくれないか」
 ぎょっとして真田の顔を見る。本気のようだった。
「何で俺が」
「頼んだぞ」
「何で俺がっつってんだろ! 嫌な予感しかしねえよ!」
 話を聞く様子もない幼なじみに行かないからなと念を押すと、荒垣の表情が感染ったように眉間に皺を寄せた。
「何故だ。シンジと会ったら治るかもしれないと言っていたぞ」
「美鶴の提案か」
「そうだ。戦力になるなら捨て置く訳にはいかない」
 文句を言おうと口を開きかけたとき、病室の扉が勢いよく開いた。
「真田サーン、お届けものー……」
 最初は陽気な声だったのが、室内の空気を感じ取ったのか段々と尻すぼみになって消えていった。真田と荒垣の顔を見比べて目を瞬かせている。
 声の主、今病室に入ってきた男は顎に髭を生やしてはいるがまだ少年だ。月光館の制服を着ているあたり、四月に入った新人というのが彼だろう。
「ちょっと順平、早く入りなさいよ」
「え、いや、なんかさ……」
 連れ合いがいたらしく、男の後ろから女の声がする。そういえば新人は二人という話だった。揃ってお見舞い、とは随分仲のいいことだ。
 何にせよ、話を区切るには都合がいいと立ち上がる。
「もういいな? お前らのお遊びには付き合ってられねえ」
 問いかける口調であっても答えを聞くつもりは無かった。大股で歩けば気圧されたように新人が道を開ける。
「シンジ!」
 反射的に足を止めてしまう。体ごと振り向かず、視線だけで呼びかけに応じる。
「俺は、お前と一緒に戦うことも諦めてないからな」
 返事は、舌打ちだった。


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