ブロ愚

日々徒然と妄想文

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
きみはぼくをころして
1時間でどれだけ書けるかチャレンジその2。

・オリジナル
・短い

↓続きから。












 きみは僕を見ている。僕だったものを見ている。その大きな瞳を丸く見開いて、じっと見つめている。きっと僕の目に未だ世界を映す力があったなら、その澄んだ色の中、鏡のように映る僕の姿が見えたことだろう。
 きみは僕を見ている。自分が殺した命をじっと見つめている。じりじりと太陽がきみの背中を照りつけている。きみの影の中に、僕だったものがある。きみがしゃがむと、肩にかかる髪が柔らかく流れた。
 きみは僕に手を伸ばした。その小さく細く、頼りない指の一本が、恐る恐る僕に触れる。僕の頭を爪で突付くと、すぐに手を引っ込めた。何かとても恐ろしいものに触れたように、触れたことが信じられないように、その爪先をじっと見つめた。八の字になった眉。どこか怯えたような表情が、指先になにも変化がないことを確認すると愉悦交じりのそれに変わる。2,3回手を握ったり開いたりしたあと、意を決したようにもう一度僕に手を伸ばす。君のしっとりとして柔らかな、桃色に色づいた指の腹が、僕の頭を、僕の体を、この存在を確かめるように撫でた。
 きみはその指にぎゅっと力を入れる。物言わぬ僕に不満を言うように。だけど僕はもう命亡きものに相応しい口数でしか、きみには応えられない。きみがその爪に、白くなるほどの力をこめたとしても。
 きみはまた指を離して、その腹についた、僕の体をどくどくと流れ僕の命を動かしていたものを眺めた。顔に近づけたり離したりして、物珍しそうにしている。興味津々といった様子で、匂いを嗅いだり少しだけ舐めてみたりする。美味しいものではなかったようで、顔をしかめてきみは指を服に擦りつけて、僕の体液だったものを拭った。そして君はまた僕に目をやるけど、見つめる顔に表情と呼べるものが見当たらなくて、僕はわからなくなる。
 きみは、ぼくをころして何を思うの。
「なっちゃん。なっちゃん」
 きみは声がした方を見て、嬉しそうに「ママ」と呼びかける。なっちゃんというのはきっときみの名前なんだろう。きみを呼んだのは優しく穏やかな声。コンクリートの上、静かにヒールを鳴らしやってきた人影。声の印象そのままにおっとりと微笑む、きみによく似た女性がきみに話しかける。
「なっちゃん。幼稚園のバスが来ちゃうわ」
「うん」
 きみは元気よく答えて立ち上がる。地面についていた赤いスカートの裾を、大人ぶった仕草でパタパタとはたいた。
「なにしてたの?」
「あり」
「蟻?」
 きみは僕を指差した。きみの大きさに比べたら、あまりに小さく脆く、地面の染みと見紛うような僕の死体を、きみは指差した。きみの母親はまあと口元に手をあてて、怒った半分困った半分といった調子できみに語りかける。
「なっちゃん、ダメよ。蟻さんだって生きているのよ。可哀想でしょう」
「かわいそう」
 きみは初めて聞いた言葉をその喉から飲み込むように、うんと頷いた。素直な我が子の様子をみて、きみの母親は嬉しそうに微笑む。
「もう、殺しちゃだめよ」
「わかった」
 きみはニッコリ、大人たちが子供らしいと太鼓判を押すような無邪気な笑顔を見せる。そしてきみの母と手を繋ぎ、童謡を歌いながら、陽の差すコンクリートの向こうへと歩いていく。僕を踏み潰したその小さな靴で。
 だけどきみは、明日も僕を殺すだろう。そうやっていくつもの僕を殺して、いつかそのことを忘れて大人になり子を生すのだろう。きみの母がそうであったように。


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。