ブロ愚

日々徒然と妄想文

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「約束の時間だ」
という訳で(どういう訳だ)年末、12月31日ネタです。

注意
・年末に縁起の悪いバッドエンドネタです
・荒←主前提……というか280で色々と上手くいかなかった後とお考え下さい
・心持ち綾主風味
・終始暗いです。ギャグ要素皆無。
・青がちょっと頭おかしい子です(元々か?)
・2日で一気に書いたので色々おかしい可能性があります
・それでもよければ続きからどうぞ。









「電気ぐらいつけたらどうなんだ」
 俺がそう声をかけると、ベッドサイドに腰掛けて俯いていたそいつが顔を上げる。
「暗い方がやりやすいでしょ」
 薄暗闇の中で自嘲気味にそう言うから、俺も笑いながら違いないと返してやった。廊下の方が明るいから逆光で俺の顔は見えていないと思うけど、声で笑っていることは伝わっただろう。
 扉を閉めるとカーテンを開けっ放しの窓から街灯と月の光が入ってくる。それでも薄暗いことに変わりはないが、窓の傍までくると思っていたより明るいことに少し、驚く。
「君の部屋で会うのは久しぶりだね」
「ああ、そうだな」
 目を細めて、懐古の情に浸った。目の前にいる男がまだ子供の姿をとっていた時。違う名前を名乗っていた頃。俺たちがまだ1つの存在であった日々のこと。
 ――別れてから2ヶ月も経っていないのに、こんなにも懐かしいなんて。
「眠れなくて暇を持て余しているところに来てくれたのは助かってた」
 ファルロスは、……いや、綾時は満月前後以外にも、俺が眠れなくて困っているときに姿を現した。影時間の間だけだったけども。
 そこで俺たちは、というより殆ど俺が喋っていたけど、沢山の話をした。例えば、昼間学校で起きたことや、友人から聞いた話や、俺がそれに対してどう思ったかの話。影時間以外の世界を知らない子供(に見える存在)だった綾時に、空や海の色を語り、写真を見せた。話のネタが尽きたらうろ覚えの童話を聞かせたこともある。
 俺はもうちょっと反省すべきなんだろうな、とは思う。そうやって植え付けてしまった世界への焦がれが、今こんな状況を作り出している。だけど。
 綾時が眉尻を下げたまま、唇を弧に描いて頷く。泣きそうな笑顔は、きっと綾時にとっても愛しい時間だったからだと思っていいんだろう。でなければ意味がない。
 俺はお前の笑顔が見たかったんだから。
「楽しかった……あの頃は。君の話を聞いて、光輝く世界に、思いを馳せて……」
 再び俯いて、ぽつりぽつりと語る声に浮かぶのは、懐古と後悔の色。泣いているのかもしれない、と思った。
「でも、君がひどく悲しんだあの日……そう、10月の満月だ」
 思わず、指先がぴくりと震える。未だ傷跡として心に残る赤い色の記憶。
「僕は、思ってしまった。僕なら、僕が彼なら悲しませたりなんかしないのに。ずっと君の傍に居るのに、って」
 今だから言おうか。そう言って、綾時は俺を見る。
「僕は、あの人になりたかった」
 告げると同時に立ち上がって、自然と見上げる形になる。そうして俺は、その行為の意味を理解する。
 背が高いなとは思っていた。俺から生まれた存在なら、もうちょっと小さくたっていいのにと不満を覚える背の高さ。でもどこかで覚えのある、頭ひとつ分の身長差。
 ――俺の記憶の中にある、”彼”の身長。
「馬鹿みたいだよね。身長を揃えたところで、同じものになんかなれる訳がないのに」
 抱きしめられた。まさかこの腕も、彼に似せて造ってないだろうなと疑わしく思う。
「それでも、こうやって抱きしめる腕が、君の手を握るてのひらが、その手を取ったまま逃げ出せる足があったのに、そうしなかった彼がちょっと憎くて、妬ましくて」
 肩に顔を埋める綾時の頭をよしよしと撫でた。俺に会うために、触れるために人になったのだと言うのなら、俺はそれを肯定しよう。たとえそれが世界の終焉と共にやってきたのだとしても。俺の幸福は、世界がどこまでも続いていくことに直結していないのだから。
「扉をな」
 そして、綾時に教えてやろう。俺の答えを。
「扉を、開けられなかったんだ」
 相槌は返ってこない。黙って続きを待っているのだろう。
「鍵は開いてたんだ。ノブが最後まで回ったから、それはわかる」
 思い出す。泣きながら、扉の前から逃げた夜。
「でも」
 10月の、影時間も過ぎた真夜中に覚えた絶望。
「腕が動かなかった」
 震える指がドアノブから離れて、信じられないと思いながらもう一度、触れる。だけど回りきったノブを押す腕に、力が入らない。
「何の、話……」
「覚えてるだろ、お前はまだ胎内にいたんだから」
 優しく髪を撫でながら、悪いことをした子供を諭すように、思い出すことを促してみる。
「きみが、」
「うん?」
「君が、彼の部屋に入ろうとした、時のこと……?」
 おずおずとした答え方に小さく笑ってから、当たり、と答える。
「俺と彼の繋がりは、僅か1ヶ月」
 その方が数が大きく見えるからといって秒数に直しても、たった280万秒にしかならない。
「俺たちの間にはコミュさえ無かった。――絆なんて、無かったんだよ」
 俺たちの間には何もない。ただひととき、同じ寮で過ごしただけ。あの人は、温かな世界の片鱗を見せて、魅せるだけで去ってしまった。
 真田先輩にはあったろう、天田にはあっただろう。遺された意志。受け継ぐことが出来るもの。死して尚残る繋がり。だけど彼らのために遺された意志に、俺の入る余地はない。
「それでも大切だったけど、……それでも大好きだったけど」
 想いが強ければ強いほど、何もない、遺されもしないことへの虚無感とその存在の喪失がどうしようもなく心を苛む。
 彼の気まぐれが落としていった、ナイフとぬいぐるみに縋って、でもそれじゃ満たされなくて。本当に欲しかったものは、もう手に入らない。
「何もない関係の、意味を持たない存在の、何て無価値なことだろう」
 そう。何もないから、あの1ヶ月に意味なんて、無かった。出会わなければ、よかった。出会わなければ恋い焦がれるこの心を灼く炎も、痛みも、それでも会いたいと願ってしまう愚かしさも、知らずに済んだというのに。
「無価値な関係に、彼の世界へ踏み込む資格なんか無くて――」
 扉の向こうに彼が居る気がした。彼の部屋へ行けば、何かが見いだせる気がした。だけど俺は自分の中に意味を、資格を、見つけられなかった。結果、腕は動かなくて。
 彼に拒絶されたような気さえ、した。
「――失うことで痛みを覚えるくらいなら、俺は1人きりで生きるべきだった」
 大切なものなんて作るべきじゃないと、身を持って知っていたのに。いつまで経っても学習しない。だから俺は”愚者”なのだろう。
「始まりは、俺の両親。優しくしてくれた親戚。それから”彼”と……」
 大切だった、愛しい人たち。今は、もう、亡い。
「……10年もの間、傍にいてくれたお前」
 触れた頬は俺と同じ体温で。どれだけ混じり合いそうだと思っても、薄い皮に隔てられたこの体はもう2度と同一にはなれない。
「俺にとって大切なものばかりが、この手をこぼれ落ちていくなら」
 どこまでも青い、快晴の空の色をした瞳を見つめて、はっきりと言う。
「そんな世界、俺はいらない」
 それが俺の答え。
「いいの……?」
 綾時が目を見開いて、信じられないと言わんばかりに訊いてくる。
「いいに決まってるだろ」
 自分から殺せって言ったくせに、何を今更。
「みんな、きっと怒るよ」
「怒る前に忘れるよ、全部」
 綾時を殺せば、影時間の全ては無かったことになる。ペルソナの存在も、共に戦った記憶も全て。”彼”の存在さえも、忘れてしまうことだろう。
「彼も、きっと……」
「死んだらそれまでだよ、続きなんかない」
 死後の世界なんてない。天国も、地獄も、ない。ただ広がるのは、永遠の静寂、無だけだ。死んだら死んだ人に会えるなんていうのは幻想にすぎない。
「あるかどうかも解らない幻を、信じたりしない」
 死んだらもう2度と会えない。そんなのは、当然のことなんだから。
「そんな風に否定しないでよ……僕は、君の笑顔が見たかったから、」
「綾時」
 何を言おうとしているのかは解らないが、勘違いしているようなので、そこは訂正しないといけない。
「俺は」
 一拍おいて、微笑む。
「今、幸せだよ」
 だって、もう何かを失うこともない。失う前に、全てが終わる。喪失に怯えることも無く、別離に心を痛めることもない。ただ静かに終わるだけの世界は何て穏やかなんだろう。
 それは俺にとって、願ってもない幸福だ。
「青くん……」
 一応は頷いたものの、まだ腑に落ちない顔をしている。
 まったく、願いが叶うんだからもっと喜べよ。俺が報われないとでも、思っているんだろうか?
「綾時、走馬灯って知ってるか?」
「え……っと、死ぬ前に、今までの思い出が蘇る、とかいう……?」
 そうそう、と肯定してから、訊くまでもなかったなと思い直す。11月の別離以前の知識は、俺たちは共有している。
「最近知った、走馬灯の新しい説があってさ」
 体を離し、召還器を手に取った。
「人は死ぬ間際に走馬灯を見る。自分が生まれた時からの記憶を、追体験する。それを見ている間、本人は現在の自分のことを忘れている。つまり、」
 息を吸う。高揚した心が、語る唇を止めない。
「――もう1度人生をやり直しているんだ」
 運命という名の人生の筋書きは、変えられないけど。
「たとえ一瞬の夢に過ぎなくても、本人の体感時間はその人の一生分の時間……もしかしたら、俺たちは今”生きている”と思いこんでいるだけで、俺の死の際の夢の中なのかもしれない」
 綾時は笑ってまさか、と言うが完全に否定する方法は無い。
「そしてその夢が終わりかけるとき、死の間際。走馬灯の中で、再び人生をやり直す。終わらないんだよ。他の人から見てその人は失われてしまっても、その人自身は永遠に生き続ける。人は生まれたときから永遠の環の中に在る」
 だからこそ、死後は無。何故なら、死後そのものが存在しないから。
 今度は綾時は笑わなかった。でも、俺はおかしくて堪らなくて、笑う。
「そして俺は、何度でも――」
 そう。たったひとつ、もう2度と会えない人に会う方法。
「彼に、会える」
 それは、もう1度彼に会う方法に他ならない。
「そんなの……君が言ってた天国と同じだよ。幻だ」
「あるかどうかも解らない幻と、確かにある幻なら、俺は後者を選ぶよ」
 一生を駆け巡るのが一瞬なら、17年間の人生の内の1ヶ月なんか、瞬きする間もないんだろう。それでも俺は、


「あの人の幻影に、会いに行く」


 引き金を引く。
 一瞬の夢の中で、あの日と同じように、彼が笑う。



BADEND / 0.001秒と少し(12/31)


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